2022年4月9日土曜日

天使だな。

 帰りの電車が混んでたので、先頭車両の1番前に立って線路を眺めていた。


そしたら窓にようやく目が届くぐらいの小さい男の子が来たので、彼が良く見える様に場所を譲って少し後ろに移動。すると若い男性の声で「ありがとうございます。ほら、ありがとう言って」と言うので父親と一緒なのだろう。男の子も私を見上げてつぶらな目でお礼を言ってくれた。

普通なら話はそこでおしまい。


なのに、その後ちょっと面白い展開になった。


暫く前を向いて線路を見ていながら、おそらく寝てしまったのだと思う。気がつくと急行の駅2つも過ぎていた。もう少しで降りる駅だなとボンヤリ思ってたら下の方から「ねえ、うんてんしゅさん、かわったんだよ〜」と可愛くて小さい声がする。


ん?と下を見ると、あの男の子が私を見上げてて目が合った。


「うんてんしゅさんかわったの、わかったぁ〜」

「わかんなかった」

「えー、なんでー。さっきかわったよ〜」

「寝てた」

「ねてたのかぁ〜、そこギュッてにぎってねてたのか〜」

「立ったままね」

「なんでー?」

「仕事で疲れてたから、寝ちゃった」

「しごとでつかれたのかー。ねぇ、あそこにむしがいるよー」

「どこ?見えない」

「あそこだよ。みえないの〜?」

「よく見えるね、偉いね」

「めがいたい〜」

「花粉だな」

「かふんかぁ〜」


お互いの声は極めて静かで小さくて、ものすごく普通。


そしてどちらも「私ね・僕は・おばさんは」等の主語を入れない会話だった。


なんだろう、このゆるゆるした時間は。


ほどなく降りる駅に着いたので、男の子に向かって「バイバイ」と手を小さく振ったら、少し残念そうな表情で「ばいばい」と同じ様に小さく手を振ってくれた。


それだけの事なんだけど、なんだか不思議な時間だった。


あれはきっと、天使だな。







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